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演技

◆大切な「感受」、「浸透」、「反応」という過程 

演技というのは、基本的に、人間の感情を再構築することだと私は考えています。
 では、どういう過程を辿れば、感情は再構築されていくか。
 それにはまず、人はどういう風に感情を表に出していくのかを考えていけばいいと思います。感情を表に出す。それは結局「反応」ということになるのですが、そういう「反応」をするのには、必ずきっかけがあるわけです。

そして、何かきっかけがあって、人はその出来事をまず「感受」します。

やがて、それが自分の頭脳に、いわゆる感情として「浸透」していき、その結果「反応」が生まれてくるわけです。

これは生理的に行われるものなのですが、それを意識的に作っていくというのが演技なのです。

したがって、演技をする、つまり感情をリメイクしていくというためには、「感受」、「浸透」、「反応」の3つの過程が必要だということになります。

ところが、「反応」だけが演技だと思ってる人が時々います。
 例えば、役者が下手な芝居をしたとします。そして、いかにもとってつけたような演技を見せられているな、と感じるような時は、きっとその人は「反応」だけしかできていないのだと思います。 


◆3つのプロセスを左右する状況 
 では、この3つのプロセスというのが、どういう過程で演技を生み出していくのか簡単に説明します。まず、「感受」ですが、これは五感のことです。つまり、見る、聞く、においを嗅ぐ、味を感じる、そして肌で感じる。そして、その場の状況や「感受」した出来事や衝撃、あるいは誰かの行為に対して五感が受けた刺激の大小によって、その人の血圧や脈拍が反応して、浸透の速度が決まるわけです。その結果、自分の身体を使って、人間は「反応」していくわけです。ですからのんびりしている時に、「今は何時くらいかしら」と尋ねられたら、そののんびりした状況と相手の言葉の穏やかさを「感受」して、その言葉はゆっくり「浸透」していきます。その結果、「そうねえ、さっき、遅い朝ご飯を食べてから、こうやってのんびりしてるから、そろそろお昼かしら」と反応するわけです。一方、テレビで、野球をぼんやり見ていて、自分の大好きな選手がホームランを打って試合を逆転させたりしたら、急にガバッと起きあがって、「よし!」なんて急に敏捷になってテレビにかぶりつきますね。それは、その状況と血圧と脈拍で、そういう「反応」が出てくるわけです。

 

◆台本を通して、人間の生理の速度を読む     

 もう一つ例を挙げると、今自分の目の前に、お茶の入った湯飲みがあるとします。
 それを触れてみて、暫くその状態を続けてから「反応」するなら、「まだ冷めてない」と穏やかに言うのが適当でしょうが、熱湯を入れた直後に触れたら、「あちっ!」という「反応」になる。つまりそういう状態に対して、人間の生理で「反応」が出てくる。それを、ちゃんと台本を読む中から、その人間の生理の速度というのを読んでいく。そういう形で、本が読めて、その人間の心情さえ理解すれば、「演技」は、すべて出来るはずです・・・。 

 

 ◆内的感情が反応を左右することも

 「演技」をする上で、もう一つ大切なことがあります。それは、内的感情というか、内的煥発とでもいうものです。自分の心の内からこみ上がってきたものに、不意にハッとすることがある。つまり、そこで内的感受ということが起きるわけです。それが、上で述べたプロセスを左右することがあります。その場合、その思い出すという行為が、自分が思い出そうとして思い出すのか、突発的に思い出すのかによって当然、「反応」も違うということを知っておかなければなりません。しかし、今はひとまず概論的にこれだけ話しておきます。そして順次「感受」、「浸透」、「反応」の各々についてお話ししていこうと思います。

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