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◇2017年9月

 皆様お元気にお過ごしでしょうか。9月に入りました。私は今博多座に来ております。 今年の夏は梅雨と夏との順番が入れ替わったような気候になりました。7月から8月初めまではとても暑い日が続きまして、その後に雨の日が続きました。水不足の関東には恵みの雨となりましたが、この雨による大きな災害で大変な思いをされた方も多くございました。

 この8月は納涼歌舞伎の序幕「刺青奇偶」の演出をさせていただきました。演出のお仕事は私の将来の望みでもありましたし、嬉しいことでしたが、やはり歌舞伎はお稽古日数が少ないということが良い舞台を創る為には大変難しいことが多くあると改めて感じました。

 そして先日東京で「レ・ミゼラブル」を見て、その後に「ビリー・エリオット」を見てまいりました。大変質の良い素晴らしい舞台で、2012年にロンドンで観て感激したことを思い出しました。歌舞伎座以外の劇場でこのような素晴らしい舞台が生まれてくる時代です。なおなお自分の本拠地である歌舞伎座での仕事を充実できるようにと深く考えた8月でした。不景気な時代にいろいろな劇場でも大変な思いをして『何とか良いものを作ろう』と試行錯誤しているだと思います。

 今になって演出をしていまして、色々と考えていますが、昔の歌舞伎の道具は「泥絵の具」という、化学染料ではない染料を使っておりました。そのために、良い色合いが出せたのですが、近年では化学染料で自然な色を出すのが大変に難しくなっています。また照明では「LED」や「ハロゲンランプ」が使われていて、発色発光なども良くなっては来たのですが、長谷川伸先生の江戸時代のお芝居の「刺青奇偶」など、江戸時代の物を作ります時に、現代の道具の染色で良い雰囲気を出すのが大変難しくなってしまいました。今は、全てを液晶画面で見ている時代ですから、自ずと刺激の強い角のある雰囲気の物になりがちになってしまいます。そうしますと、昔のような、どこと言って掴みどころのない、ぼんやりとした太陽の光やロウソクの光だけで暮らしていた昔の生活感が、劇場に出てこないのです。お芝居ですから、嘘の有る世界ではあるのですが、淡い表現し難くなってしまったと、とつくづく考えた今の歌舞伎座なのでした。今後も舞台に出演する、また演出するときには、昔のようにとはいかないとも思いますが、そのような「時代を感じさせる」「心を和ませ、染み渡る演劇」という劇場空間の作品を創っていきたいという思いを切実に感じたのでございます。

 また先日、岸恵子さんのトークショーを拝聴いたしました。私もトークショーなどをさせていただいておりますので、岸恵子さんの豊富な人生経験から、どのようなお話が聞けるかと期待して観に行ったのですが、大変素晴らしいトークショーでした。映像を使ってのお話もあり、海外の方々との交流のお話もあり、また映画撮影時のお話もあり、素晴らしい時間を過ごさせて頂たました。このトークショーでこれから日本の各地を回られるということです。実はこのトークショーは、私のトークショーで函館に参りました時に、岸さんのトークショーのポスターを拝見しまして、先日見た時は初日だったのでしょうか・・・幸いに東京公演を拝見することが出来ました。残念ながら岸さんとはお目にかかるようなご縁はありませんでしたが、このようにトークショーを拝聴させていただきまして『ああ、このように生きてこられたんだ…』と思いましたし、フランスで過ごされたということで、世の中の政治や世界情勢というものを良い意味で「身近に考えていらっしゃるのだなあ・・・」とつくづく感じましたし、はっきりとものをおっしゃるということは、本当に素晴らしいことだと自分の身に引き寄せて感じていました。これからも色々なところでご自身の人生経験をお話して頂いて、一つの道標となっていただきたいと思いましたし、これからもますますご活躍なさることをお祈り申し上げます。

 9月は博多座と京都で「幽玄」を上演させていただきます。京都から帰りますとすぐに、10月歌舞伎座の「沓手鳥孤城落月」に向かってお稽古を進めてまいります。「沓手鳥孤城落月」の淀君は私には初役になりますので、博多座が落ち着きましたら台詞など覚えていきたいと思います。

 これからは秋の涼しい季節がやってまいります。皆さまどうぞお健やかにお過ごしくださいませ。

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