◆ 2014年11月

November 1, 2014

皆様お元気にお過ごしでしょうか。いよいよ11月に入ろうとしております。
 10月は十七世中村勘三郎先生の二十七回忌、十八世中村勘三郎さんの三回忌の追善公演でございました。先月のコメントでも申し上げましたが、十七代目さんには色々なお役に抜擢していただき本当に有難い存在でしたし、十八代目さんとも数多くの作品にご一緒させていただいたことを懐かしくもあり、儚い思いを痛感するひと月でございました。
 そして現在は3年振りとなります八千代座公演の稽古など準備をし、29日の初日を待っているところでございます。今は山鹿に滞在しておりますので早めのコメント掲載となりました。出し物は「口上」「簾の戸」「葵の上」「鐘ヶ岬」を上演させて頂きます。これまで、康楽館や金丸座、そして八千代座等と古い芝居小屋に出させていただきましたが、初めて八千代座に伺いましてから20数年が経ちまして、楽屋、稽古場、そして客席にも冷暖房が完備されまして本当に居心地の良い劇場になったとつくづく感じております。11月の初旬は鼓童のお稽古で佐渡へ渡りますが、この秋のひと時を山鹿と佐渡で過ごさせていただきます。後半は12月の歌舞伎座で上演いたします「幻武蔵」の演出をさせていただきます。私にとりましてはこの11月では大きなお仕事となります。12月歌舞伎座の「幻武蔵」は、7年前に国立劇場で「蓮絲恋慕曼荼羅」という作品を森山治男さんの脚本で上演させていただきました。実はその時には「妖怪武蔵」という脚本で出品されましたが「妖怪武蔵」では余りにも題名としては暗いのではないか…ということになりまして、今回の歌舞伎座では「幻武蔵」という題名になりました。主演は中村獅童さん、尾上松也さんのお二人で上演いたします。この戯曲は「天守物語」とも御縁がありまして姫路城の富姫も少し出てまいります。今回私は「富姫」を演じませんが「淀君の霊」のお役を務めさせて頂きます。
 さて今月は草履のお話をさせていただきます。私は楽屋周りや舞台裏を歩きます時には、音がしないように草履の底はフェルトを使用しております。雨が降っていなければ取材や外履きにも使用しておりました。また少し長く歩くときは底が柔らかい皮を張った草履を履いております。私が若い頃は歌舞伎座に「竹屋」さん、という草履屋さんが出入りしておられました。その竹屋のおじさんが鞄に外履き内履きの草履を沢山持って楽屋に売りに来ておられたのです。そのおじさんが亡くなりましてからもうその草履を買うことが出来なくなってしまいました。昔は草履や襦袢や化粧品など、楽屋で使うものを色々な業者さんたちが持ってきて下さって各楽屋を回られておりました。今ではフェルト底の草履を探しますと、女性物は見つかりますが男性物がなかなか見つかりません。また特別注文で業者さんにお願いしますと、当然ながら1足だけをお願いするというわけにもいきませんので、5足ほど注文いたします。草履の畳を創る職人さんが少なくなっていくことも私たちにとりましては非常に残念なことでございます。私達は楽屋履きの草履は少し小さめに履きます。特に女形は脱いだ草履が、さも大柄な男が履いていたなどと思われてはいけません。なるべく小ぶりな草履を履くことが女形の心得でもありますので私は幅の狭い小ぶりな草履を履いております。私たちの子供の世代や孫世代がこの先、どのような草履を履いて生活をするのかと、とても心配をしているのでございます。また下駄なども手に入りにくくなったのかもしれません。私が小さい頃には軽い桐の下駄を履いておりました。しかし外で遊びながら、高い所から飛び降りたりしてしまいますと、桐の木目に沿って真二つに割れてしまった思い出がございます。また皆様は「真田紐」という物をご存知でしょうか。職人さんがよくタスキなどに使っております紐のことですが、これも現代では多く手に入りにくくなりましたし、羽織の紐も特別な色合いの物は、わざわざ組んでもらわなければならなくなりました。現在は浅草などで手入ることが出来ますが、昔はどこにでも様々なものがありました。先ほど草履のお話もしましたが特に女形の羽織の紐は少し細めな物をつけなければ粋な雰囲気がなくなってしまいます。男物でも女物でもない細めな紐が昔は沢山ありましたが、現代では市販では多く出回っていませんので、当別注文しなければならない時代になりました。しかし無い物だからこそ特別注文をして身に着けて楽しむという気持ちもどこかあるのかもしれません。私たちは注文して、なんとか手に入れることが出来ておりますが、次の世代の人たちがどのようにするのかとても心配になります。昔の写真集を見ながら、九代目團十郎さん、五代目菊五郎さんなどの大先輩が普段どのようなものを身に着けておられたかと勉強をしながら注文してきました。そのような衣裳と共に普段着も勉強していかなければならない時代になったと思います。
 さて、色々と毎月コメントで申し上げて参りましたが、いよいよあと2か月で2014年も終わりを迎えます。12月の歌舞伎座には皆様お誘い合わせの上、是非ご来場くださいますようお願い申し上げます。

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