◆ 2014年9月

August 31, 2014

いよいよ9月に入りました。この8月、佐渡では雨の日が多く、また東京でも末の数日は雨の日が続きました。今年は涼しくなるのが早かったように思います。皆様お元気にお過ごしでございましょうか。8月は舞台をお休みさせていただきまして、前半は、来年の3月に赤坂アクトシアターで開催させていただきます「ダズル」のお稽古をしまして、また後半には佐渡で鼓童のお稽古をしておりました。
 さて今月は「鷺娘」の傘と「阿古屋」で使用しておりますお琴と三味線についてのお話しをさせていただきます。先年「和楽」から発行されました私のムックにも多少お話ししておりますが、私が「鷺娘」を初演しましたのは27歳の時ですから37年ほど前になります。当時は日本舞踊で使います紙張りの傘や、絹張りの傘が豊富に有りましたが、20年ほど前から舞台用の傘を作る職人さんが少ない時代になってしまいました。工芸品と言いますと芸術品のように思われますが、元々は皆さんが普段から使われる品物のことなのです。現代で工芸品と呼び、特別な物のように思われているのでございましょう。例えば「風呂桶」や「筆」、「草履」や「下駄」、「お茶碗」などの食器もそうだと思います。現代ではプラスティック製品などで簡単に買い替えられてしまえます。純日本風の日傘なども使う人が少なくなってしまったら無くなって行くのが自然の流れなのかもしれませんが、古典芸能をやっている私達としましては、お芝居や舞踊などで使う物が無くなり、良い作品が出来なくなってしまうということなのです。約20年前に、それまで15年間ほど使ってきた「鷺娘」の絹張りの傘がうっすらと破けてきてしまったので、新しく作ろうとしていたところ、舞踊用の質の良い絹張の傘が容易に出来ない時代になって来ていることに気付きました。普通の番傘などはまだ需要がありますので作る職人さんがいらっしゃるそうですが、舞踊で使います柔らかな線を描いて開く、きゃしゃな傘を作る職人さんが少なくなってしまっていたのです。それから以後はずっと京都の専門店や歌舞伎の小道具さんに『どこかで作れないか』という相談しておりましたら、なんと岐阜で作られている職人さんがいらっしゃるということで、早速注文しようとしているところなのです。また、京都のお茶の世界では、野点の傘や、僧侶が移動するときに時に後ろから差しかけている大きな傘、歌舞伎では仲之町の花魁が差さしている傘などはまだまだ需要があるので作られているようです。しかし、舞踊で使う傘を作る職人さんとしては、生計が成り立たなくなってしまっているのでしょう。いずれは舞台芸術として成り立たなくなってしまう時代になってきたのかなあ・・・と寂しい思いがよぎりました。
 また、阿古屋のお琴でなどで使用しております「桐」も国産の物が少なくなってきたようです。出来上がった琴の木目を見ればすぐに分かりますが、海外で育った桐は日本のように四季がゆっくりと流れませんので木目が急に変わっているのです。日本は夏から秋冬とゆっくり移行していきますので木目の変わりが柔らかくなります。音色にはさほど変わりはないのかもしれませんが、残念なことに、日本の独特な風合いという物が感じられなくなって来ているのです。今でも三味線は絹糸を使用しておりますが、お琴ではとうに絹糸ではなく化学繊維の「テトロン」を使用しているのが主流になって来ております。私が子供のころは、お琴も絹糸を使用しておりましたが、1週間ほど弾いていますとすぐ切れてしまいました。しかし音色が非常に柔らかく、色も黄色く染まっており絹独特の素晴らしさがありました。また現代ではワシントン条約などで象牙が取れなくなり、三味線の撥も、お稽古の時の物はプラスティック製になってしまいました。ワシントン条約で規制される前に、なんとか象牙を仕入られた職人さんもいらっしゃいますが、それもそろそろ無くなってしまうということです。三味線で使います猫皮も少なくなってくるという話を聞きました。今後は長唄、常磐津、清元の三味線の音色が変わって来てしまうのではないかと不安を感じています。沖縄の三線はニシキヘビの皮を使っておりまして、こちらもワシントン条約の関係で海外などでは持ち運びするのが非常に困難なようです。ワシントン条約で規制することも大切とは思いますが、昔から伝わってきた伝統の様式が現代の化学繊維の物に変わってしまうというもの寂しい気がします。
 このように私が玉三郎を襲名したころから既に様々な物がなくなってきておりますが、幸いなことに、私は30年ほど前から色々な物を作ってまいりましたので、何とか持ちこたえているというのが現状です。お琴は会津の桐で作りましたし、三味線の撥も象牙のものを持っております。衣装の織物や刺繍の絹や金糸もなんとか自然の素材で作ってまいりました。今後どのような時代になってくるか、大変に心配している今日この頃でございます。このようなことは私だけでは解決することはできません。皆様にお話しすることで、古い時代の良き物が少しでも復活してくれればと思い、先月からコメントで述べさせていただいております。来月は湯呑茶碗のお話をさせていただきます。
 食欲の秋です。皆様お身体に気を付けてお過ごしくださいませ。


 

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